調律
ピアノは定期的に調律が必要な楽器です。
ピアノの調律とは、弦の一端が巻きつけてあるチューニングピンを、チューニングハンマーという道具で締めたり弛めたりして、88鍵を音楽として成立する音律に仕上げる作業を言います。
ギターやバイオリン等の弦楽器と同様に、内部には弦が張ってあります。
ピアノに使われる弦は炭素鋼で出来ており、1本が80〜90キロ、その本数は全部で220〜230本もあり、16〜20トンもの張力が常に掛かっているのです。
他の弦楽器に比べ強い張力で張弦してある為、僅かな弦の緩みが、かなりの調律の狂いとなってしまう非常にデリケートな楽器なのです。
ピアノは、弾かずに置いておくだけでも少しずつ調律が狂ってしまう事にくわえ、その他調律が狂う要素として、温湿度の変化、使用状況、設置環境などがあります。
ピアノはオブジェではなく、音楽を奏でる「楽器」ですから、せっかく良いピアノをお持ちでも、調律が狂っていては音楽として成立しません。
正確な調律をしてあげる事で、はじめて鍵盤楽器「ピアノ」としての魅力を発揮するのです。
私達「人」が定期的に健康診断をするように、車に車検があるように、ピアノも定期調律を欠かさない事が大切です。
ホールのピアノのように演奏前に毎回調律出来ると理想的ですが、一般家庭ではそうもいきません。
せめて年に1回の調律、できれば半年に1回程度の調律をおすすめします。
調律はゲイジュツ!?
調律は芸術になるのでしょうか?
もちろんそんなことはありませんよね。
でも、私は考えるのです。
もし、やむにやまれぬ思いを音であらわしたものが音楽という芸術であるならば、
私の作る調律の音に、
たとえ、胸を焦がす美しいメロディーがなくとも、
たとえ、心にしみるハーモニーの移ろいが聴こえてこなくても、
その発する音の、その音色だけで、
人の心を動かす、そして時には涙を流す、そんな音を創ることができたら、
それもまた音楽の一翼を担う芸術になり得るのではないかと。
私は、そんなやむにやまれぬ、おさえがたい思いを心に熱くたぎらせて、
調律に打ち込んでいきたいと心から思うのです。
芸術家でありたいと願う、ひとりの調律師がみる夢です。